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zine「ここには思い出が多すぎる」に収録されているエッセイ「君たち全員まぶしい」の一部を公開。
2024年8月、筆者がひとりでさんさ踊りを観覧した時の思い出を綴りました。
ここには思い出が多すぎる。
なんとなく、岩手にいて、なんとなく増えていった思い出は、
時々私を寂しくさせる。
楽しかった、単純なあの頃には戻れない、とか、
なんで素直になれなかったのだろう、とか。
未練と後悔が多いまちで、これからも生きていくのか。途方に暮れる。
ここで生きていかなければならない、という使命感も、責任感も、ない。
今の自分にしかできないことも、ない。
ただ、今やりたいことは、私が住んでいるまち、
思い出がこびりついているまちを、
ドラマのように仕立てることだ。
ドラマは都会だけで生まれるものではないはず。
片隅にも生活はあって、そこから広がるストーリーがあってもいい。
ここでドラマを生み出す人になりたい。些細なことも、ドラマの種になるのだ。
だから、今日、ここに来たのだろう。ひとりなのに。
人混みもお祭りも嫌いなのに。種を集めにきた。
もう少し、ここにいよう。もう少し歩いて、
さんさ踊りをこの目で焼き付けてから、家に帰ろう。
人の流れに乗っかり、城跡公園前の横断歩道を渡る。
エスポワールいわての前を横切り、裁判所前の十字路に辿り着くと、
さんさ踊りのパレードが通る大きな道が見えてくる。
パレードを間近で見ようと、多くの人が立ち並ぶ。さすがメインブース。
人と人の合間から、ひょこっと顔を出して、ようやくパレードが見えた。
蒸し暑い中、まるで泳ぐように、滑らかに動きながら、
太鼓を担いで叩き、笛を吹き、踊り子は踊る。
暑さも、疲れも感じさせず、このパレードを心から楽しんでいる。
さっこらー、ちょいわやっせー、と威勢の良い掛け声。頭につけた、
思い思いの花飾り。
てかてかの笑顔。笑顔。どこを切り取っても、笑顔。笑顔が眩しい。
パレードに見入っている人々も、目を輝かせ、夏に思いを馳せている。
蒸し蒸しする。様々な匂いが混じり合う。クラクラする。
その感動の眼差しが、眩しい。
ここにいる人、全員、眩しい。全員主役の顔をして、夏を満喫して、眩しい。
こんな日常が戻ってきて、よかった。夏に齧りつける夏が来てよかった。
綺麗な浴衣を着ることができてよかった。
思いっきり踊れる場面が再び訪れてよかった。
楽しいことを、うんと楽しめるようになって、よかった。
相変わらず捻くれ者の私は、眩しい人たちを横目に、帰路へ向かう。
帰り道、適当に見つけた屋台で焼き鳥を買い、家で食べることにした。
家に着くと、クーラーが心地よく効いた部屋で、
霜降り明星せいやとアレン様のコラボ動画を見ながら、焼き鳥を平らげた。
あの場にいた、眩しい人たちは、明日からまた、
学校に通ったり、職場へ向かったり、勉強に躓いたり、
仕事のミスにへこんだり、片思いの人とうまくいかず泣いたりする。
ただ、また、あんな風に特別な出来事のために生活を送る。
私もそのひとりである。
夏は過ぎるが、楽しいことはまたすぐやってくる。眩しい人たちの生活は続く。